コロナをきっかけにオンライン授業が広まり、オンラインで学べるのが当たり前の時代になりました。
資格取得支援を中心にさまざまなレッスンがオンラインで開講されていますが、高野山大学では他ではあまり学ぶことができない仏教や密教の基礎が学べる「密教文化コース」を設置しています。
こちらのコースでは人生や社会課題の解決にも活きる哲学を学ぶことができ、現役の社会人を中心に支持を得ています。
今回は、高野山大学の松長 潤慶教授にインタビューさせていただきました。社会人を対象にオンラインで授業を提供するに至った背景やカリキュラム、受講を通して得られる学びなどについてお話を伺いました。
松長潤慶 先生
高野山大学 副学長・教授
高野山大学副学長・密教学科教授。
専門は密教学、密教図像学。密教文化を国内外で研究し、弘法大師空海の哲学や真言密教の教えを学内に留まらず全国各地で伝える。
オンラインで在宅でも深い学びを
――まずは、貴学について教えていただけますか。
本学は今年で創立138年を迎える歴史ある大学です。もともとは真言宗寺院の跡取りを育てる目的で設立されました。しかし、真言宗を開いた弘法大師空海の思想は僧侶だけでなく一般の方にも学びになる部分が多く、現在は僧侶を目指す方だけでなく、哲学や思想、生き方など幅広い学びを求める方が本学へ通われています。学部は文学部のみで、密教学科と教育学科を設置しています。
――25歳以上の方を対象に、オンラインでの密教文化コースも開講されていますが、どのような経緯で始めることになったのですか?
もともとは大学を卒業してさらに学びたい方に向けて、在宅で学べる通信教育課程を大学院で設けていたんです。こちらは、オンラインではなくテキストを送付して課題を解いてもらい、それを添削する形で進めていました。しかし、哲学はテキストだけではなかなか理解が進まない部分もあり、オンラインやオンデマンドでも受講できるようにした方が良いのではないかということで、現在の形になりました。
また、高野山までは距離があるので、通学が難しい方も少なくないと思います。コロナ禍を経て教員もオンライン授業に慣れてきましたし、オンラインにすることで日本に限らず世界中の人が受講できるようになります。実は、海外で仕事をされている方からの受講希望も多いんです。
仏教、密教を基礎から教え、僧侶への道も支援
――オンラインの密教文化コースでは、どのようなことが学べるのですか?
本コースでは、仏教、密教を基礎から学ぶことができます。具体的には、密教の歴史や教義、密教経典やマンダラ、心理学なども含めたカリキュラムを用意しています。科目によってはオンデマンド配信も行っているため、仕事終わりなど、ご都合の良い時間に学習することが可能です。
3年次編入という形で、3回生・4回生の2年間で基礎を学んでいただきます。また、長く学びたい方は、在籍料は必要になりますが、最大で4年間在学することが可能です。
もちろん大学院に進学することもできますが、現状はオンラインには対応していません。継続して学んでいけるように大学院でもオンラインコースを設けた方がいいのではないかということで、今後どうするのか検討しているところです。
――卒業後は、みなさんどのような道に進まれているのですか?
卒業後に目指す進路はさまざまですが、密教を学びたいという方は安定して一定数いる印象です。僧侶になりたいという方も多くて、特に女性の方が僧侶を志望される方が多い印象があります。しかし、僧侶になるには、100日間の修行を行わなければいけません。なかなか過酷な修行で、大人になってから体力のある若い方と同じペースで進めるのは難しい部分もあります。
本学には加行(100日間の修行)が行える道場があるので、受け入れ態勢を整えて、ゆったりと無理なく修行できるようにしていこうと考えているところです。
学生の場合は大学のスケジュールに合わせて長期休暇中に100日修行を行いますが、社会人の方が同じスケジュールで行うのは難しいです。そのため、社会人の方には仕事終わりの時間などを利用して修行を行っていただくことになると思います。
また、実際に高野山に来て学ぶことも非常に大切だと考えています。この特別な雰囲気の中で学ぶ経験をしていただきたいのですが、仕事をしながらずっと高野山に滞在するのは現実的には難しいです。こうした、密教を学びたくても通学が難しい方のためのコースが、密教文化コースになっています。
宗教ではなく「哲学」を学ぶ
――どのような学びを求めて、皆さん受講されているのですか?
仕事や生活のなかで迷いが生じた際に、視点や視座を変えたいという思いで受講される方が多いです。本コースは25歳以上の方を対象にしており、特に40〜60代の受講者が多くなっています。現役を引退された方よりも現役の方が多く、キャリアを積まれた方や、中には我々も知っているような企業にお勤めの方もいらっしゃいます。
現代の情報化社会やさらに大きく言えば戦後日本が経済発展してきた中で、見落としてきたものもあるじゃないですか。こうした見落としてきたものが、弘法大師の思想を通して見えてくるんです。
社会を見渡しても、現代の社会構造の中でストレスをためて最悪の場合、死を選んでしまうなど、さまざまな問題があります。こうした現代の課題にアプローチする考え方が、仏教、密教、弘法大師の哲学の中にはあります。
高野山や密教と聞くと宗教をイメージされる方も多いと思いますが、我々が教えているのは宗教ではなく「哲学」です。人の生きる意味を考えるのが哲学で、西洋にはない考え方が東洋にあるというのがポイントだと思います。
現在、アメリカを中心にマインドフルネスが流行していますが、マインドフルネスで行っていることは、実は仏教でお釈迦様が行っていたものであり、密教に繋がっています。世界中で求められていることを、オンラインの密教文化コースではいつでもどこでも学ぶことができます。人生に迷った際には、ぜひ受講していただければと思います。