無人化店舗が、その裾野を拡げ始めている。そうした中2019年7月に設立されたTOCUCH TO GO(以下、TTG)の存在が、認識を高めている。TTGは一口で言えば無人化店舗の仕掛け人であり、特許案件を活かしたシステムなどを投入し開業を実現させる仕事人。実現した総店舗数は「昨年10月時点で200店舗を突破」と明かしている。

無人化店舗は今後、どんな推移を見せていくのか。それを占う上で、何故TTGが生まれたのかは極めて興味深い。
TTGは、現代表の阿久津智紀氏により産み落とされた。
阿久津氏は1982年、JR東日本に入社。以降TTG設立まで、自身が言うとおり文字通り「幾多の仕事」に携わってきた。羅列するとこんな具合だ。
「駅ナカコンビニNEWDAYS(店長)」「青森シードル工房:A-FACTORY(りんご酒醸造所)」「JRE POINT(JRグループの共通ポイント)」「JR東日本スタートアッププログラム」などの立ち上げなどを経て2018年2月には、「JR東日本スタートアップ(100%出資のベンチャーキャピタル)の設立を担当している。
19年7月にサインポスト(レジ待ちのない店舗システムの開発を進め『スーパーワンダーレジ』を実現していた、現東証スタンダード市場上場)と設立したジョイントベンチャー:TOUCH TO GOの代表に就任した。
確かに阿久津氏の足取りは徐々に現業の立ち上げに通じる、起業に収斂されている。ならば業を興し自らが代表の座に就いた、その背中を押したものは何だったのか。
目の当たりにした、人手不足という重い課題がTTG設立に・・・
阿久津氏はTTG設立の背景を、こう振り返っている。「コンビニの運営然り。自販機事業然り。青森のシードル事業もそうでした。関わった事業の大方が、人手不足という課題を背負っていた。それに伴う人件費の高騰。事業を円滑に進める上で、大きな課題となっていた」とした上で、自らに言い聞かせるように「労働力不足は構造的に今後、更に加速していく。24時間営業といったサービスは、維持するのが困難になっていく。JR東日本で様々な事業に携わる中で、日増しにそうした危機感が高まっていった」とし更に、こう言い及んだ。「人手不足に悩む企業に力になれるビジネスに携わりたい、と痛感するようになっていた」。
TTGはこんな経緯で生まれた。
JR東日本には、グループ企業として:JR東日本スタートアップがあった。オープンイノベーションプログラムを主催していた。このプログラムに、前記のサインポストが応募。JR東日本との開発技術を介した、協業を企図した。最優秀賞を受賞した。阿久津氏はサインポストが開示した「スーパーワンダーレジ」の技術を知り、自身の体験の中から長年の問題意識として抱えていた「小売業の人手不足」という課題を解決しうる可能性を感じ取った。二度の実証実験を行った。その上で合弁会社として、TTGの代表として船出した。
翌20年3月には高輪ゲートウェイで「無人AI決済」店舗を開業。ファミリーマートやANA FESTAに無人決済店舗システムの導入を進めた。
拡大期入りの契機は、ファミリーマートとの業務提携。阿久津氏が描く先々の絵図
TTG=無人化店舗の認識を広く世の中に知らしめたのは、20年11月に発表した業務提携の発表だった。
この提携はTTGが、設立母体のJR東日本グループという枠を超え国内最大級のコンビニストアチェーンとの本格的な協業に踏み出したものだった。文字通り、初の事例だった。両社は省人化による店舗運営コストやオペレーション負荷の軽減。顧客と店舗スタッフが直接接することのない非対面決済の推進。マイクロマーケット(小規模店舗市場)への出店を可能にする店舗形態の創出etcを追い求めていった。
24年9月時点でTTGの無人決済システムを導入したファミリーマートは、44店舗にまで拡大した。TTGの無人化店舗市場における確固たる地位を確立する上で、決定的な転換点となった。
幸い44店舗中の1店が、生活圏にあった。体験してきた。手にした商品はAIカメラと重量センサーの情報を合わせ「誰が何を求めたのか」を認識する。トレイに載せた商品を手にレジに直行。スムーズに決済ができた。齢76歳にして「より便利なコンビニ」が、体験できた。
さて阿久津代表はいま、どんな方向に視線を転じているのか。またぞろ自らに言い聞かせるように、こう語った。
「目標は社会インフラ化です。自販機に次ぐインフラ化を目指しています・・・」
「具体的には例えば・・・規模が小さく有人ではコストがかさむだけで運営が、成功が成り立たない店舗でも、当社の無人決済システムを導入することで実質的に店舗の拡大が可能になる。人手不足という課題も解決できる」
「展開を地方にまで進めていきたい。地方振興にもつながり、昨今問題になっている近場のお店が潰れて難儀している買い物難民の対応にもなりうる」
ちなみにそうした方向性を実現していくためには、一層のシステム開発が不可欠。昨年6月には「自販機ほどのスペースで無人店舗を展開することができ、お客さんは実際に商品を手に取り質感を確かめながらスピーディに買い物が出来る」(阿久津氏)、「TTG―SENSE SHELF」が実現している。
期待してこれからも見守りたい。
阿久津氏の取材を終え、フッとこんな思いが頭をよぎった。蕎麦大好き人間。そばは「十割そば」に限る。TTGのホームページには、システムを導入している企業・商品が紹介されている。なかに十割そば店「二代目長助」(東証・名証プライム市場上場:サガミHDが運営する麺和食チェーンの一つ)が、4月26日にTTGのシステム導入と記されていた。「自動認識店舗:二代目長助が生活圏に登場するのはいつかな」と思い、ついつい舌なめずりをしてしまった。
前記の通りJR東日本グループにはベンチャーキャピタル:JR東日本スタートアップがある。TTGの社内には既に針路として、上場が醸成されている気配濃厚。