株式会社NOMAD 佐々木ハスゲレルさん【草原の中をゲルで移動しながら、家畜を育てる暮らしをしていました】

モンゴルから来日し、モンゴルの雑貨や衣料を販売する事業を営む「株式会社NOMAD」の代表取締役・佐々木ハスゲレルさんに、モンゴルでの生活やボランティア活動の様子、モンゴルの衣料の素晴らしさ、ご自身がお店を開店するまでのお話を伺いました。

遊牧民の家庭に生まれた

私は内モンゴル(中国の「内モンゴル自治区」)の遊牧民の家庭に生まれました。家族は草原の中をゲルで移動しながら、家畜を育てる暮らしをしていました。

私が小学生の頃は、遊牧民の子達は毎日一人で馬に乗って色々な家庭に集合して、皆で半日遊んで半日勉強して、という日々を送っていました。「今日は〇〇の家、明日は〇〇の家」という風に、順番で家を回っていくんです。

それぞれの家の距離は、5kmから10kmくらい離れているんですが、馬は頭が良いので道を覚えていて、子供一人でも自分の家には迷わず帰れるんです。

中学生以降になると、学校の寮があるので親から離れて暮らすようになりました。

そして、私は1990年からは外モンゴル(独立国家「モンゴル国」のこと)の首都・ウランバートルの音楽大学へ留学し、民族音楽を学びました。でも、音楽で食べていくのは難しいので、別の大学にも通い、秘書などビジネスの勉強をして、ウランバートルの銀行に勤めました。

ウランバートルで日本から来ていた今の夫と出会い、3年間交際した後、結婚しました。結婚後は、夫の実家のある長野県飯田市に移りました。

故郷へのボランティア

日本に来てから、故郷の為に何かしたいと思って、モンゴルの伝統音楽を用いてチャリティーコンサートを開きました。皆さんから頂いた善意のお金を使って、日本で使われなくなった中古の医療機器を外モンゴルの国立病院に寄贈することができました。

あと、内モンゴルの60人の子供達へ学費の援助をしました。その内の2人は日本の大学へ留学できるまでになって、現在は東京の会社で働いています。

また、2004年から2019年までの15年間、日本の人々の協力を得ながら内モンゴルでの植林活動を行いました。というのも、外モンゴルから内モンゴルにかけては「ゴビ砂漠」という大きな砂漠があり、遊牧や温暖化の影響もあってそれが広がってしまっているのです。

特に、30~40年前に日本でカシミヤを使った衣料がよく売れるようになって、内モンゴルの遊牧民の間で「ヤギはお金になる」ということが知れ渡り、ヤギが増えたんです。ヤギは根っこごと草を食べてしまうので、砂漠化がより進行するのです。

遊牧民には草原を守るという習慣はあるんですが、移動し続けて暮らしているので、日本人のように1つの場所に留まって木を植えて育てるという習慣はなかったんですね。

だから、日本人が内モンゴルに来て植林をしてくれるというのは、とてもモンゴル人の力になりましたし、良い勉強にもなりました。15年間植林をした土地には緑が広がっていますし、春になったら木を植えるという習慣がつきました。

日本でお店もオープン

長野県北安曇郡池田町にある店舗「遊牧民」

そういったボランティアをしながら、飯田市の隣にある高森町に本物のゲルを建てさせてもらって、そこでモンゴルの雑貨や衣料を販売しました。

最初は、「日本でモンゴルの物が売れるのかな?」と思っていたんですが、ある時、NHKの「おはよう日本」という番組が中継に来て、放送直後はお店の中の物が全て売り切れてしまいました。それでモンゴルの物は売れるのだと実感しました。

おかげさまで、お店の売り上げ金もボランティアの方に活用することができました。

また、飯田市の街中で雑貨店兼レストランも営業しました。高森町のゲルのお店もそうだったんですが、お客さんがよく来てくれて、友人もできました。その中には、植林に参加してくれる人も沢山いました。感謝しています。

現在は、長野県の池田町に拠点を移して、「遊牧民」という店名で雑貨と衣料の販売店を運営しています。また、札幌三越本館でも常設で販売しています。

希少なヤクの毛

モンゴルは、冬の気温がマイナス40℃になるくらい寒い所なので、防寒着が発達しています。

特に、ヤク(ウシ科の動物)から採れる毛を使って作った服は本当に寒さに強いし、体に良いのです。例えば、ヤクの靴下を履くと、温かい上にカカトのあかぎれは治るし、消臭効果もあるので臭いません。

また、私達は11月から3月になると、よく札幌や東京のデパートに展示販売に行くんですが、ヤクのセーターなどはよく売れます。ヤクの服を着たことのないお客さんが、「1枚だけ買ってみるか」と言って買って下さり、また来店した時に「使ってみたら凄かった!」という感想をよく頂戴します。

ヤクの毛糸は人間の体温に馴染みやすいし、通気性が良いので、暑くなって蒸れるということもないのです。

ちなみに、そういった衣料品に使うヤクの毛は、1頭から約60gしか採れません。産毛を採るんですが、毎年5月20日くらいになると喉や脇の奥の方から毛が抜けてくるので、それに優しく櫛を通して採るのです。希少で高級な物です。

ヤクはヤギと違って草の根っこを食べないので、モンゴルの草原を守る意味でも大事な動物です。

これからも、ヤクの毛糸の素晴らしさと、モンゴルの文化を日本でお伝えしていきたいと思っています。