ランサーズ株式会社【組織でなく個が社会を築く時代】

 ランサーズ(東証グロース市場)。2019年末の上場後4年半余りを迎える。設立は08年。クラウドソーシングサービスを提供する企業。具体的には企業(発注者)とフリーランサー(求職者)をマッチングするプラットフォーム(Lancers)を運営している。

 手元の四季報は業績欄の見出しを【黒字定着】としながら、材料欄を「継続前提重要事象」と結んでいる。確かにランサーズは2022年3月期:3億6700万円の営業損失/23年3月期:2億4900万円の営業損失となった。が今3月期は「4000万円の営業黒字」計画を掲げ、5月13日の本決算では7000万円で着地した。かつ新年度の営業利益を「1億円」計画とした。

起業の原点は、創業者社長の原体験

ランサーズ株式会社 代表取締役社長:秋好陽介氏

 創業者で代表取締役社長:秋好陽介氏に会ったのは、かれこれ5年余り前。秋好氏は「自分は自営業の家庭で育ったということもあり、幼いころから商売という世界に惹かれる部分がありました」とした上で、「大学時代にはネットを介して企業から相応の収入を得ることもありました」と語った。

学卒後ニフティに入社。ネットサービスの企画・開発を手掛けた。そこで「企業の発注先は個人ではなく法人に大方が限定されることを知ったことが、我が身の大学時代の実体験がランサーズ設立の背中を強く押した」とした。

 ランサーズを「世界で一番、フリーランスのことを考える集団にする」というミッションを課し設立した。が、当時「国内には同業者はいなかった。海外にはあったが、日本にはまだ浸透する前だった」と振り返る。要は自らの体験に基づく確信だけが、新たな市場の創造に踏み出させたのである。

 では現にランサーズの存在は、どうして世の中に認識されていったのか。無論、求人企業・求職を求めるフリーランサーの開拓努力は言うまでもないだろう。が秋好氏は、「東日本大震災(2011年3月)が、事由として印象的だった」とした。そして、こう続けた。「未曾有の災害の中で、自分自身の働き方を見直す人が増えた。結果として、ランサーズの認識度も上がった」。IR担当者も、「東日本大震災を機に誰もがどこにいても働ける環境を届けるためにランサーズの機能の大幅な改善などを実施した。その効果でランサーズの存在は世の中に認識されたと考えている」とした。ちなみに爾来10年、ランサーズへの求職登録者は200万人を超える水準に達している。

 収益体系は、求人企業(クライアント。HPにランサーズを活用した著名企業の話も掲載されているので参照を)がフリーランスに支払う契約金の5・5%(税込み)を、フリーランスが受注する契約金額16・5%(同)をシステム手数料として得る。「エンジニアやデザイナー、マーケターなど、専門的なビジネススキルが必要な業種に強みがあると認識している」(IR担当者)という。

 「働き方改革の時代」が指摘され、標榜されている。その範疇には「副業」「フリーランス」の在り様も含まれる。以下では働き方改革とランサーズを軸に記す。

第4次産業革命

 秋好氏の信念は昔も今も、全く揺るぎない。確信するところを、こう語り続けている。

「第4次産業革命とも言える、全世界を巻き込んだ社会構造の変革が起こっている。ランサーズが提供するサービスも、その変革の一翼を担う事業。『インターネット活用して出来る価値の創造』と『社会を担う個(人)をエンパワーメントする』」とした上で、「ITの力で個人は場所を選ばず、自由に働くことが可能になった圧倒的なプレビュー数を誇っているブログやSNSの運用ビジネス、ネットオークションやEC商店への出店がまさにソレに当たる。しかし個人が持つ影響力を最大化できていない。我々は一石を投じた。個のエンパワーメントが実現する社会をつくること。それが我々のミッション」と変わり始めた世の流れを読み解き、その対応に自信を示す。

 ランサーズのオンラインスタッフィング領域の9割方をエンジニアやデザイナー、マーケッターなどスキルの高い人が占めている点もその背景になっている。

丸井グループと資本提携 約5億円の調達の意図

ランサーズの仕組み

 老い(過ぎ)たとはいえ記者も今はフリーランスの一員。秋好氏がよく口にする「組織でなく個が社会を築く時代」には共感を覚える。が気持ちのどこかに、「足元・先々の生計なり資産形成に繋げられるのか」という疑問があった。

 ランサーズはこの間、「良質なフリーランサーとクライアントをマッチングさせるためのアルゴリズム」「フリーランサーの定着増のためのスキル取得」等々の施策を執ってきた。

 そして今春早々に『ランサーズ、丸井グループらと資本提携 』とする、リリースが配信された。こんな内容だった。

『フリーランス人口が増加し働き方の多様化が加速する社会において「フリーランスにとって価値の高い金融サービス」を提供することは互いのビジネスの成長につなげられる最適なパートナーであると考え、今回の資本業務提携に至った。今後、丸井グループとの対話を重ねながら・・・新たな金融サービスを開発・提供することで、よりよい社会の実現に寄与する。多様な働き方を選択するにあたり、働き手には「信用力の担保」や「金銭面の安定」といった様々な課題が生じる。こうした阻害要因を取り除くため、丸井グループが展開する会員数700万人を超える「エポスカード」との提携カードの発行をはじめとした、フリーランス向け金融サービスの開発に取り組む』

 私が「ランサーズ、黒字定着」に立ち位置を取る上の大きな要因は、この「資本業務提携」である。