チバニアン兼業農学校 平山泰朗さん【テクニカルに面白いことをしたい】

コロナ禍を経て、「都会を出て田舎で暮らす」という機運が高まっています。

田舎で暮らす際の職業の選択肢として農業がありますが、農家になるには地縁がないと不利であったり、また、たとえ就農できたとしても農業機械の購入や様々な設備投資に多額の費用が必要であったりと、ハードルが高い職業です。

そんな中、兼業農家としての就農に特化した日本で唯一の民間スクールが、房総半島・千葉県は睦沢町にあります。

「都会での仕事は辞めないで、週末だけ田舎で農業をする兼業農家になろう」と打ち出す一風変わった学校。

それが「チバニアン兼業農学校」です。

学校の創設者であり、校長でもある平山泰朗さんに、兼業農家を勧める理由や、兼業農家としての収益の作り方、「なぜ兼業農学校の創設を志したのか」などのお話を伺いました。

平山泰朗さん

チバニアン兼業農学校 校長

長崎県壱岐市出身。早稲田大学政治経済学部卒業。ウェブ制作会社社長を経て、NPO法人全国イーコマース協議会理事長、デジタルハリウッド大学院客員教授、衆議院議員1期。国会議員政策担当秘書試験合格。宅建士。認定新規就農者資格取得。農家、JA長生組合員。農事組合法人睦的ファーム代表理事。兼業農家評論家。

【著作】
「ネットショップ構築標準ガイド」(アスキー)
「ネットショップ運営標準ガイド」(アスキー)
「できる100ワザ-ネットショップ」(インプレス社)

【受賞歴】
日本オンラインショッピング大賞最優秀賞受賞
SOHOドメインホームページ大賞
シックスアパート賞受賞
九州ウェブサイト大賞2006

専業と兼業はカテゴリは同じだが、競技が違う

ーチバニアン兼業農学校のサイトを見て、「兼業農家」という抜け道の就農方法があるのを初めて知りました。本業でサラリーマンをしながら兼業農家になれば、税制上の優遇措置があるとか、本業と農業の損益通算ができるとか

わかる人にはすごくわかるというか。自画自賛になっちゃいますけど、よくこんな穴があったなっていうのは確かに思われるところですよね。

ー新しい戦い方ですよね

専業農家を前提にした時には、 考え方として「栽培物で成功する」ということが前提でしょう。で、もちろん私はそれが悪いと言っているわけではなくて。そもそも専業農家と兼業農家は種類が違う職業なのに、お互い誤った理解をしていると思います。

ものすごくわかりやすく例えると、 専業農家を相撲とすると、兼業農家はプロレスなんですよ。つまり、格闘技という範疇では一緒なんだけれども、競技としては違う。
それをみんなわからないから、兼業農家の人たちが専業的に頑張ってしまおうとしたりするんですよね。「同じ仕事なんだから同じようにやるべき」みたいな話になってしまう。

ー専業並みに働こうと無理をしてしまうわけですね

種類が違うから。なのにプロレスラーが四股を踏まされたり、テッポウさせられたり。いや、ちょっとこれ違うねって、やってたらわかるじゃないですか。

そこを理解しないと。兼業で農業を始めた時に、やり方を間違えてしまう。

ーサイトの中で平山先生が唱えていらっしゃる「農業甲子園論」という言葉もすごく的確で面白いですね。「とにかく一心不乱に白球を終え!農業は儲からなくても重要な仕事」という。確かに、新規就農する側にも、「退路を断って頑張らなきゃいけない」といった風潮がある気がします

そうそう。日本の精神の原点にあるような、その辺りの発想に至ってしまう。

これ、ボランティアとも似ていて。僕は若い時にボランティアをやっていたんですけど、「被災者が冷えたもの食べてるのに、お前らが温かいもの食べてどうすんだ」みたいなね。でも、ボランティアは冷えたものばかり食べていたら体がもたなくて早く帰っちゃう。逆に、被災者は冷えたものを温めて食べていた、という。

一事が万事、そういうところがありますね。

ー構造は同じですね

だから、どうしても農業のそういうところがあるのは仕方ないですね。

僕だって、専業農家が頑張っている中で兼業農家は楽して儲けて、どうなんだと思うところも一方ではあるわけですよ。だけど、そもそも仕事が違うと考えればね。例えば、床屋さんがスーパーの店員に文句は言わないじゃないですか。

多くの人が「農業やってみる」って言う時に、大変なところに入って重たいことをするというイメージがあると思うんですけど。「俺、甲子園目指すんだ」って言って、周りも、「じゃあ我慢しないといけないね」と見るような。 だけど、僕らがやっている農業というのは、それとは全然違うんです。

リスクの少ない兼業農家モデル

ー我慢しないでやれる兼業農家とは、どういったものですか

僕らは兼業での新規就農者の収益モデルがあるんですが、その一例として、都会に住んでサラリーマンをしながら田舎でソーラーシェアリングとオリーブ、自家用の米作をやる場合。

ソーラーシェアリングで年間60万円くらい儲かるんですね。初期投資は1,000万円かかるけど、サラリーマンだから与信が通るわけです。専業農家の人より通りやすい。

で、オリーブを2反(約2,000平方メートル)やる。大体1反あたり年間40万円くらい利益があると。2反だから80万円利益が出る。投資額は、オリーブ1本5,000円を1反あたり40本植えて、2反分で40万円。

ただし、苗木を植えてから5、6年かかりますよ。でも、専業農家みたいにすぐに収益を上げなくて良いので、5年かかったって高単価になった方がいいわけですよ。

この2つの収益は、ほとんど作業が発生しないので、都会に住んで2拠点生活でもできるんですよ。

ー資金的に「桃栗3年」に耐えられる上に、本業に集中できるわけですね

ストック収入みたいな。もう、オリーブはほとんどリスクないじゃないですか。

ソーラーの方は、窃盗とか施工不良はありますけどね。適切に作って、配置して、配電単価が決まってきて失敗というのはありえないですよ。

あと、自家消費の米作の部分でいうと、実は田んぼ1反あたりの作業が年間で23時間しかかからないって農水省で言っているんです。で、1反で約600kg米が取れて、1人が年間で食べる量は50kg。そうすると、一瞬にして食料自給率が100%になるんですよ。

ただし、都会に住んで田んぼをやろうとすると、水管理に来られないでしょう。でも、僕らの学校がある睦沢町では、近くに住んでいる生徒がひと月3000円で水管理をやってくれています。

ーでは、睦沢町で兼業の新規就農をするのにはほとんど壁がないですね

何もない。

他にもオプションが沢山あって、千葉だと体験農業・観光農園をやれるんですよね。で、農地にキャンプ場を作れるんですよ。あと、空き家再生事業もできるし、季節労働だけどドローンで農薬散布の副業もある。オリーブ畑でドッグランもできる。農家レストランをやっても良いし、お年寄りが増えているから、草刈りのバイトもある。他にも、昆虫販売、養蜂、野菜と卵の自販機、肉牛放牧、タケノコ、農家民泊、簡易道の駅。

全部やる必要はないけれども、この一部をやるだけでも結構副収入としては収益を上げることができますよ。

ーあらゆる兼業で

そうそう。農的生活と、ライフスタイルで農業をやりたいというものがあるとするならば、その中でこういう色々なことを重ねてやった方が楽しいじゃないですか。

兼業農家にならせる専門家

ー平山先生はかつて国会議員もされて、今はなぜ兼業農家の普及をなさっているんですか

政治の世界はポジショントークばかりなんですよ。

例えば、食料自給率の議論なんかをみんながよくやりますよね。日本は自給率が低いから上げなきゃいけないとか色々言うんだけど、その議論をAさんとBさんがして、どちらかが勝ったとしても実際の自給率は一切何も変わらないわけですよ。

ー10年どころではなくずっと変わっていませんね

全く何も変わらないわけじゃないですか。もう、見事なまでにね。そしたら、この議論をする意味って何もなくて、時間の無駄なだけ。

結局、それよりも自分で田んぼを1反耕したら、100%にできるから。だから、もう黙って自分の分だけしとけって。もう面倒臭いから、そんな議論はするなと。議論することによって何かが変わって世の中が良くなるのかって。

ー自給率は良くなっていませんよね

だから、議論しているAさんBさんも、その前に自分で米作を始めて自給率100%にした方が早いじゃないですか。そこからの議論ならまだ良い。「他の人も100%だったら良いね」って言えるでしょう。

ーそういうことが元にあって兼業農家の普及に回られたと

そうですね。それもあるし、テクニカルに面白いことをしたいなというのがありますね。兼業農家って、実際問題としては統計に出てくるような話じゃないですか。なのに、僕と同じ仕事をしている人は1人もいないですからね。

ー兼業農家の普及の仕事なんて初めて聞きました

そう。だから、そこが面白いなと思っていて。

兼業農家って元は1000万人いた仕事ですよ。僕は、その兼業農家を作る仕事です。僕1人で専門とか、ふざけてる。そういうふざけてるのが好きなんです。

誰も兼業農家にならせようとしないというか、もうならせなくても良いのかもしれないけど。

ーあらゆるものが専業農家にならせようとしていますよね

でも、最近はちょっと多様なあり方というものも出てきているんだけども、それを形にしているのは我々だけじゃないかなと思います。普通は兼業農家へのならせ方がわからないから。

で、今は睦沢町内での兼業新規就農者数が50人になりました。

ーめちゃめちゃすごいですね

そう。だから下手すれば朝から5、6人に会いますよ。土日だけだけど。来年ぐらいにはもしかしたら80は超えるんじゃないですかね。そうなってくると、地域での立ち位置も変わってきますよね。例えば、地域の草刈りの日なんかでも、参加者は地元の人より我々の方が多い時もあります。

ー地域から信頼を得たことで、就農しやすくなっているんですね

そうです。それに、人数が増えてくれば、熱も生まれますよね。「睦沢だったら50人もいるから、何かイベントやったらすぐ人も集まるよね」とか、なってきますよね。で、結局もっと人が来るっていう好循環になっちゃう。

それに、人数が集まることによって、農業機械の共有みたいな実利的なことも増えますよね。

場を作る才能

僕は元々、長崎県の壱岐という島で育ったんですが、そこに「平山旅館」というのがあって、そこが実家なんですよ。

僕が子供の頃、親が思いついたように、その旅館に「からへえの間」という囲炉裏端みたいなものを作ったんですね。「からへえ」というのは、「役に立たない灰」っていう意味なんですけど、お客さんが無料で飲んだり食ったりできる場所。

島だから、みんな焼酎を飲むんですよね。焼酎はビールと違って悪くならないので、キープできるんですよ。それを無料で振舞うんです。

そこは僕たち兄弟の勉強場所にもなって。とにかくいろんな人が来るんですよ。

ーえー、そうなんですか

大学教授も来るし、パチンコの店長も来るし、社長も来るし、千差万別。色んな人が来ましたね。とてもよい雰囲気で、「こういう感じって良いなあ」と子供の時に思いました。

それで、後々の話、僕は学生の時に阪神大震災で神戸のボランティアに行ったんですけど、そういうすごく居心地の良い場所を作れたんです。旅館とはちょっと違った

ーみんなが集まれるような

そう。みんなが集まる。あまりにも居心地が良いから、「1週間ボランティアやって帰ります」って言っていた学生が、2週間、3週間、4週間と延長したり、ボランティアを終えて帰った人が「やっぱりここが良い」って次の日に戻ってきたりね。

ーみなさん、その場で充足したわけですね

うん。たったの1~3ヶ月くらい一緒にいただけの間柄なんだけど、10年ぐらいメーリングリストが続きました。その中で結婚したのも3組いるし、同窓会をしたら20人ぐらい来ましたね。

これは一生の仕事にしても良いなと思ったんですけど、ボランティアなのでそうはいかないですね。でも、自分には場を作る才能があるんではないかと気づきました。

ー場を作る才能が

そうそう。で、その次に「全国イーコマース協議会」という団体を作って、これは何でできたかっていうと、当時、楽天市場が突然出店料を値上げしたんですよ。毎月5万円だったのが、「来月から売り上げ課金にします」と。

これは酷いということで、楽天市場に出店している店長たちのコミュニケーション、横のつながりの場として作ったんです。当時、1000人くらいの団体になりました。

そこで店長同士の交流の掲示板をつくったんですけど、毎分のように書き込みがあって、その内容が面白すぎて、「掲示板ばかり見ちゃって仕事が手につかないから勘弁してくれませんか」って嬉しい悲鳴みたいなものも上がりましたね。

あと、店長たちだけの投票で決める「ベストECショップ大賞」なんか設けたりしてね、やはり、神戸と同じような場を作れるんだなと思いました。

ー神戸に続いて、人々の居場所を作れたんですね

そうですね。それで、政治家になったらまたそういうことができるんじゃないかと思ったけど、政治の世界はまたちょっと種類が違うから、逆に思ったほどできないんですよね。私利私欲とはまた違うんですけど、みんなの居場所という形にはなりようがないっていう。むしろ、孤独なところもあって。

ーなるほど。そういった歩みを経てのチバニアン兼業農学校なんですね

また新たにその世界を作ろうとスタッフに言って作ったのがこの学校です。

若い人こそ兼業農家に

ー平山先生は、20代、30代の人にこそ兼業農家になることを推薦していますよね

なんでかというと、年数が経てば経つほど、農業界はどんどん疲弊していくので。農業者の高齢化・人口減は加速しているし。

これは業界にとっては悪いことなんですが、一方、個々の農業者にとってみれば、実は良いことしかなくて。だって、人口が減って農業者が稀有な数になった方が補助金は出やすくなるし、みんなから尊敬されるし、良いことしかないと。

僕はよく50代の人に言ってるんだけど、「あなたの息子さんは、兼業農家だったらキャリアを全く変えなくて良いんですよ。全く変えなくて良いのに、メリットしかないです」と。

ーじゃあ、やるしかないですね

そういうことになっちゃうじゃないですか。だって、例えばオリーブを100本でも200本でも良いから、20代の内から始めて、40年間育てられたら相当な数になりますよ。それを売るだけでも良い。

で、なおかつ耕作放棄地も溢れまくっているので。これは「農家の人しか買えない」という大原則は変わらないと思うんですね。競売物件なんかでも農地は出てくるから、そういったものを取得して、その上に農家住宅を建てて。

若ければ若いほど、この知識があればあるほど、そういうメリットを享受できますよ。若い人の方が良いよ、と。大学に行って、良い会社に入って、キャリアも全く変えないままできる。

ーリスクが少なくてプラスがもらえる

うん。多少の投資はいるけれども、100万円いかない投資だったらね、もはや投資というにはちょっと安いくらい。農業はそんなに儲からないけれど、再現性が高いですよ。その割には投資額が少ないし、ライバルがいないと。 だから、若い人ほど長い年月がやれるので、やった方が良いですね。