日本農業実践学園 松井眞一先生【学ぶ楽しさが絶えない】

茨城県水戸市にある「日本農業実践学園」は、私立の農業専修学校です。

農場での実習を中心とした教育が展開されており、農家になりたい人や農業法人への就職を目指す人、自給自足の生活を志す人、青年海外協力隊として外国で農業指導に就くことを希望する人などを受け入れています。

また、週末だけの農業体験コースもあり、幅広い世代が農業を学んでいます。

学園の教務担当で、有機農業の指導者である松井眞一先生に、ご自身の歩みも含めてお話を伺いました。

農業を学べる専修学校

日本農業実践学園は、昭和2年に「日本国民高等学校」という名前でスタートして、もうすぐ100周年を迎えます。かなり歴史のある学校になっています。

最初は「それぞれの農村で中核となるような人を育てていく」という教育方針で、高校生主体で受け入れていました。が、戦時に入ってからは満州開拓者の受け入れを始めて、開拓の為の技能の教育を3ヶ月ぐらい施す、という役割を担いました。

戦後は、またしばらく高校生の受け入れをしてきました。やがて、高校卒業者を対象とした2年間の短大コースのようなものができて、色々とコースが多様化し、昭和55年に「日本農業実践大学校」という名前に変わり、昭和60年から社会人の受け入れも始め、平成3年に現在と同じ「日本農業実践学園」という名前になりました。

現在は高校生のコースはもう廃止していて、2年間の短大相当のコースと、1年間の社会人コースの2本立てになっています。コースの中身ですが、有機農法も慣行農法(化学合成農薬や化学合成肥料を使用する農法)もありますし、畜産や農産加工も選べます。

あとは、現在就業していない方に向けた「求職者支援訓練」の受け入れも行っています。こちらは大体半年間のコースになっています。

それから、平成8年に週末だけの「就農準備校」が開講されて、今は「農ある暮らし講座」と名前を変えて継続しています。2週間に1度学園に通ってもらって、学園の畑で学ぶ講座です。こちらは私が担当しているんですが、希望者が多くて、定員20名で募集をかけるとすぐに埋まってしまいます。熱心な参加者が多くて、7年間通って来ている人もいます。

国家公務員を辞しての就農

私は大学の農学部林学科を出て、そのまま林野庁に入り14年間働きました。その内8年以上が東京の外にいて、北海道から熊本まで、2年に1回くらいの転勤で色々な森林の現場へ行きました。林野庁を辞めた時は東京の霞が関にいたんですが、段々とデスクワークが多くなってきて、自分としてはまだ体を動かしたいなと思っていたんです。

なので、辞める1年以上前から当時の就農準備校に通うようになりました。準備校は慣行農法ではなくて有機農法だったんですが、「有機は凄く良いな」と思いました。やっぱり、森林を扱っていると環境に対して色々と考える側面が多いので、農業もそういったことを意識した方が良いと思って。

そして、林野庁退職後は、社会人コースに1年間所属しました。社会人コースは慣行農法しかなかったんですが、当時、学園には有機農法の指導者である矢澤先生がいらっしゃったので、先生に会える時は個人的に有機の指導を仰ぎました。

それで、社会人コースを卒業してすぐに栃木県の茂木町という中山間地で有機農家になりました。中古の農家住宅を買って、農地は借りて。周りを山に囲まれたような場所で、農業的には条件不利地だったんですが、環境は良かったので有機農業には向くかなと思って、そこを選びました。

そこでは少量多品目で野菜を作って宅配で野菜セットを送るという、一般的な有機農家の手法で暮らしていました。

ところが、段々とイノシシの被害が出たりして管理が大変になって、ちょっとこのまま農地を維持できるかどうかという状況になってしまいまして。

そんな時に、日本農業実践学園の方では矢澤先生が退職されるので、有機農業の指導者がいなくなってしまうということで、私に「先生になりませんか」と声がかかりました。有機農家を12年間やったところでした。

学ぶ楽しさが絶えない

農業って植物と関わりながらの作業になるので、植物自体を知らないと良い農作業ができないんですよね。それぞれの植物の特徴とか、利点とか、どういう育ち方をするかとか。雑草1つをとっても、その雑草とうまく共存できるかとか、「こういう雑草はこういうところに気を付けないと、はびこって困っちゃうよ」といったことが、色々あるんです。

そういった、学ぶポイントが物凄く沢山あるんですよ。特に有機農業はまったく単純じゃない部分が多いので、その分、学ぶ楽しさが絶えないというところが、凄く魅力的な部分だと思いますね。あとはもちろん、体を動かしての作業なので、健康的になると思います。長時間の作業にはなりますが、極端に負荷のかかるような動作は多くないですから。

なので、健康的でいられながら、知的好奇心を刺激されるんです。「じゃあ次はこういうことをやってみよう」とか、「新しくこれを試してみよう」といったことが絶えない。そういった経験から次の改良を加えるまでが農業では1年サイクルになるので、時間がかかるところではあるんですけれど、それをうまく活かせれば前の年とは違った結果が得られるということも多々あるので、そういう面白さがあります。

大事なのは土づくり

農業を学びに来る人の中には、農業はその他の産業よりも凄くシンプルで簡単にできると思っている人が多いんですが、実際に学び始めて話を聞いて、「農業ってこんなに大変なんだ、自分の想像と違うぞ」と感じるみたいですね。それで興味を惹かれる人もいます。

そうやって色々と考えたり試したりして突き詰めると、やっぱり大事なのは土づくりだという答えに至ります。土づくりさえできてしまえれば、楽になるんですよ。畑の植生から変わってくるし、農作物の育ちも良くなりますから。育ちが良いというのは、管理がしやすくなるということなんですよね。

なので、新しく有機で農業を始めたいという希望を持ってくる学生もいるんですが、そういう場合には「土地探しをする時にはしっかりと確認して下さい」と伝えています。その場所が自分のやりたい農業に適しているのか見極めないといけませんので。

あと、今は有機農業で土壌分析をする人はあまりいないんですが、絶対にした方が良いです。色々と分析項目はあるんですが、その全てが等しく大事なのではなくて、大事な項目と、「このくらいだったらいいかな」ぐらいの項目があるので、優先順位をつけてちゃんと把握する必要があります。 その数字と実際の生育がどう結びつくのかを理解していかないと、感覚だけではなかなか良くなってはいきませんので。

楽しさを味わえる仕事

私は国家公務員だった頃は、仕事にあまり意義を感じていなかったんですよね。農水省って本来は農業なり林業の行き先について色々と考えて国の大事な方針を決めるので、1番の知識者であり理解者でないといけないはずなのに、中身を見ていると「本当に良くしようと思ってるのかな」と感じました。

行政のやっていることが全部正しい方向だという意義を感じなくなった分、農業で色々な楽しさを味わえているというのは、凄く良いですね。

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