今、世界では「理系と文系の垣根を越えた教育」が求められています。日本では長年にわたり、文系と理系を早い段階から分けて教育を行う方針がとられてきましたが、京都ノートルダム女子大学では何十年も前からこの枠にとらわれない教育を実践してきました。
同大学ではリカレント教育にも力を入れていこうと、2023年よりリカレント講座を開講。初年度にはDXリカレント講座を実施しました。
今回はDXリカレント講座の講師を務められた京都ノートルダム女子大学 社会情報課程 特任教授の北村美穂子先生、客員教授の金光安芸子先生に講座開講の背景や受講者からの反響、そして大学が目指す教育のあり方についてお話を伺いました。
北村美穂子先生
京都ノートルダム女子大学 特任教授
Wolfram Alpha LLC Consultant
奈良女子大学理学部卒業後、沖電気工業(株)に在籍し、機械翻訳を始めとする自然言語処理の研究・開発に携わり、在職中に工学博士を取得する。沖電気工業にて開発管理、新事業開発業務を経て、現在は、ウルフラムリサーチ社のWolfram|Alphaの日本語処理など、フリーランスでAI及びデータサイエンス関連の開発に従事する。2023年4月より京都ノートルダム女子大学の社会情報課程特任教授として教鞭を取る傍ら、中高生や大学生を対象にしたAI・データサイエンス教育の研究と実践を行う。
金光安芸子 先生
京都ノートルダム女子大学 客員教授
Wolfram Research, Inc.
お茶の水女子大学 理学部卒業後、日本電子計算(株)でMathematicaの技術サポートなどを担当。その後、Mathematicaの開発元であるウルフラムリサーチ社にて、Wolfram言語を活用したIT教育を専門として日本各地の中学校、高校、大学で講演や授業を行う。
現在は製品・サービスの国際化及びマーケティングなどの業務に従事する傍ら、2022年度より京都ノートルダム女子大学で「AIとデータサイエンス入門」を担当。2024年3月
にはWiDS (Women in Data Science)と協力して中高生向けのデータサイエンス教材を開発。Wolfram認定インストラクター。
身近なテーマで楽しく広がりのある学びを
ーー2023年よりDXリカレント講座を開講されていますが、開講に至った背景を教えていただけますか?
金光先生:本学の中期計画において、リカレント教育にも力を入れていくことが目標として掲げられていました。そのなかで、京都市ふるさと納税でいただいた支援を活用できるということで、2023年度に社会情報課程が新設されましたので、この課程の教育を社会にも還元する目的でDXリカレント講座を開講する運びとなりました。
卒業生から「大学で学んだことが役立っている」という話も聞いていましたし、オープンキャンパスで高校生向けにAIに関する講座を実施した際には、同席されている保護者の方も熱心に耳を傾けてくださいました。こうした反響を受け、社会人向けにAIに関するリカレント講座を提供することで、喜んでいただけるのではないかと考えました。
ーー「AIはチョコのお菓子を どのように判別するのか?」といった、身近なテーマを扱った講座も実施されたのですね。
金光先生:私はウルフラム言語というプログラム言語を開発している会社に所属しており、2022年度からは本学の「AIとデータサイエンス入門」の授業も担当しています。ウルフラム言語は、ローコードやノーコードに近い感覚で、簡単に使える関数がたくさんあります。こうしたものを使って数学や情報が得意でない方や苦手意識のある方にも、どうすれば楽しく学んでいただけるのか考えたときに、身近なものを使って学習するのが良いのではないかと考えました。
お菓子のきのこたけのこ論争は毎年のように話題になるテーマで、偶然Pythonなど他のプログラム言語で「きのこ」と「たけのこ」を判別するサイトを見つけたんです。私にもできるかもしれないと思ってウルフラム言語で試してみたところすぐにできたので、「これは面白いかもしれない」と感じました。
この講座の内容はリカレント講座用に作ったものではなく、大学の授業で使用している教材の中から面白そうなものをピックアップする形でご紹介しています。
ーー受講された社会人の方の反応はいかがですか?
金光先生:みなさん楽しんで取り組まれていました。実は、ビッグデータを使って判別するアプリやソフトは世の中にたくさん存在していて、日常生活の中で知らないうちに使っていることも多いと思います。ただ、仕組みを理解している方は少ないようで、データに名前を付けて学習させて判別させていることを紹介すると、「おぉ!」と皆さん驚かれていました。
お菓子のパッケージのイラストなど、お菓子以外のものを撮影して、どのように判定されるか試してみる方もいました。判別の理由やより良い結果を出すためにはどうすれば良いのか、自分で考える機会にもなったようです。授業もそうですし今回のリカレント講座でも、技術を学ぶだけでなく様々な視点で考えることもでき、学びが広がる内容になっていると思います。
また、高大連携講座として高校生向けにも同様の内容を行っており、中高生からも「楽しく学べる」と大変好評をいただいています。
他にも、コンピューター会社で働いていた経験のある知人は講座を受けたことにより、最近新聞などでよく目にするAIが、実はこれまで自分が関わってきた仕事とつながっていることに気づいたと言っていました。AIは突如登場したかのようにマスコミで取り上げられていますが、「ファジー」と呼ばれた時代もあり、実は昔から存在していた技術です。知人はその昔、ファジー部門で働いていたのですが、すべてを体系的に学んだことはなかったこともあり、AIは新しい技術だと思っていたそうです。しかし、リカレント講座を受講したことで点と点がつながり、自分が携わってきた仕事もAIにつながっているんだと気づいたそうです。
北村先生:また、参加者の中には、日頃からさまざまなデータを扱っており、データを活用することでさまざまなものが見えてきたり、予測ができたりすることはニュースなどを見て漠然とは知っていたものの、今回講座を受けたことでデータを使うことで何ができるのかより理解が深まったという方もいらっしゃいました。さらに、保有しているデータを活用して、分析にもチャレンジしてみたいともおっしゃっていました。
ーーどれぐらいの年齢層の方が参加されたのですか?
北村先生:30〜80代以上の方まで、幅広い年齢層の方にご参加いただきました。退職されて情報などを学ぶ機会がないというような方や、親子で参加される方もいらっしゃり、本当に皆さん熱心で非常に盛り上がりました。
第4回の講座では「これから来るAI社会とどのように付き合っていくべきか」という話題になり、最後の質疑応答では質問というより自分の意見を積極的に話される方も多くいらっしゃいました。幅広い分野からの参加者の発言により、終了時間が過ぎても議論が白熱し、私たちも楽しい時間を過ごせました。
金光先生:ニュースや新聞でよく目にする言葉の説明も交えながら進めていったので、「こういう意味だったのか。では、これはどうなんですか?」といった形で、どんどん話が広がっていきました。
毛嫌いせず興味のあることから学び始めてほしい
ーー 一般的に女性は理数系が苦手なイメージがあり、理数系の分野に進むにはさまざまな壁もあると思います。そのなかで、女子大学でこのようなプログラムを開講することには大きな意義があるように感じました。
北村先生:私は言葉をコンピューターで処理する、自然言語処理を専門にしています。実際に言葉を扱うので、女性にも興味を持ってもらえる内容が多く含まれているんです。例えば、自分の好きな文学作品を研究するためにコンピューターを使うことになり、自然言語処理も学ぶようになったというように、気がついたらコンピューターに詳しくなっていたという方もこの業界には数多くいます。毛嫌いせずに自然に取り組みはじめれば、誰でも学びやすい分野だということは私自身も実感しているところです。
DXリカレント講座も言葉を扱うような内容にすると参加していただけるのではないかと考え、機械翻訳や言葉の概念辞書といった内容も扱っています。「情報だから」「理系や数学だから」と敬遠してしまうのは、もったいないと思います。
理系・文系の垣根を越えた教育を
北村先生:また、大学進学時に理系・文系を区別するのは、正直時代遅れだと思います。京都ノートルダム女子大学はアメリカ人によって設立された学校で、30年以上前から英語のネイティブの先生がコンピューターを活用した授業も行っていたように、理系と文系の垣根を越えた教育を行ってきました。今、世界的に求められているのは、まさにこうした教育だと思います。本学では1960年代に心理学や服飾、インテリアなどを幅広く学べる生活文化学科を設置していたように、入学後に自分の専攻を決められる文化が伝統的に本学には根付いています。
また、2025年度より、社会情報課程は「社会情報学環」に名称を変更します。こちらでは、一般的なデータサイエンス学科とは異なり、情報の基礎を学ぶと同時に、身近な社会問題を解決するための情報と他の分野を掛け合わせて学んでいきます。学部生には理系・文系の両方の学生がおり、文系、理系という枠に捉われず、さまざまな視点から問題に取り組んでいく学環となっています。
ワンコインで気軽に学べる
ーー今後はどのような講座を実施されるのですか?
北村先生:DXに関する講座はさらにバージョンアップを図り、来年度に実施する予定です。今年度は「身近な大学講義シリーズ」と「楽しい日本文学シリーズ」を実施します。こちらの講座は本学の上質な科目をピックアップし、普段の生活で使える知識として大学講義を身近に感じていただけるように内容を改編しています。
「身近な大学講義シリーズ」では科学や哲学、心理学、統計学などが、「楽しい日本文学シリーズ」では日本近代文学や古典文学を学んでいただけます。
京都市ふるさと納税の補助を受けて実施していることもあり、受講料は1回500円と非常にお手頃な価格になっています。ぜひお気軽にご参加いただき、興味のある分野を見つけていただければと思います。