羊山公園の芝桜や秩父夜祭など、首都圏では観光地として有名な埼玉県秩父市。
しかしながら、人口減・転出超過が進んでいる自治体でもあります。埼玉県内においては課題先進地域であるため、自治体としてかなり積極的に雇用や定住の対策を打っています。
今回は、そんな秩父市産業観光部 産業支援課長の原島淳さん、同課主査の前島香保さん、ちちぶ雇用活性化協議会事業リーダーの大澤弘さんにお話を伺いました。
秩父市の概要
原島淳さん(以下、原島):
秩父市は埼玉県の西端に位置していまして、面積は約580㎢で埼玉県全体の約15%を占めています。人口については今年の4月1日時点で57,806人です。面積は県の15%でも、人口は1%以下となっております。
「秩父盆地」というくらいで、山に囲まれていまして、夏が暑く冬が寒い寒暖差の大きい地域です。 想像以上に平らなところが少なくて、面積の87%くらいが森林に覆われています。
そういった地理条件が産業に繋がっているわけなんですが、今現在、秩父市は他地域に比べて第2次産業が比較的多い地域となっております。第2次産業の割合は全国平均が23.4%、埼玉県は23%ですが、秩父は32.3%となっています。製造業が地域の経済を牽引しているという状況です。
主要産業の変遷でいいますと、まず、森林が多いので林業。それから、「秩父銘仙」で有名な織物産業ですね。
そして、高度経済成長期にセメント産業が東京都心などにかなり原料供給していました。その後、電子部品とか精密機器、金属加工なども増えてきまして、それに続いて観光産業も徐々に増えているという形です。
若者の減少という課題
原島:
現状、秩父市で課題となっているのが人口減、とくに18才から20代前半の転出が多いんですね。それに伴って出生者数も減っています。
一昔前であれば、若い内に一旦秩父の外に出て働き、いずれ戻ってくるというパターンがあったのですが、現在はほとんど戻ってこなくなってしまいました。
大澤弘さん(以下、大澤):
実は、私自身もまさに秩父で育ち外に出て、戻ってこなかったというタイプでして。秩父の外へ進学して、そのまま就職したんですね。
私はちょうど1980年に20歳だったんですが、その頃は希望する勤め先が秩父になかったんです。やっぱり、外の地域へ進学するとホワイトカラーへの就職を希望するようになると思うんですが、私が若かった頃の秩父は製造業がメインでしたから。
秩父で働けるように
原島:
秩父市では、市民満足度調査というものを行っているのですが、市民からの回答では、「雇用の促進」が重要だと考えている方が多い半面、それに関しての満足度が低いんですね。
実際、秩父に住んでいる方々の中にも、一体地域にどれほどの企業があるのかということをご存知ない方が多く、秩父の企業を知ってもらう取り組みも大切だと考えています。
大澤:
そういった事情もあり、雇用や企業活動の向上、リスキリングに関して積極的に取り組んでいます。
私たち「ちちぶ雇用活性化協議会」では、事業者と求職者の方のマッチングを促進するために、就職面接会を年に3回ほど開いています。
また、事業者の方に向けたセミナーとしては、DXによる生産性向上セミナーや、雇用環境改善セミナー、Web採用力向上セミナー、インバウンドセミナーといったものを開いています。
参加された事業者の方々から感想を頂くのですが、その90%以上は参考になったと好意的なものです。例えば、「雇用環境改善のために、今現在の自社の環境がどうなっているのか考えることができた」といった感想を頂戴しています。
前島香保さん(以下、前島):
セミナーへの参加者もかなり多くて、そのほとんどで当初の定員を超えています。セミナーによっては定員の倍以上も集まることがあります。
また、スマホの普及に伴い、仕事もスマホで探すことも一般的になってきました。そこで、市では昨年、株式会社リクルートと連携協定を結び、時代に合った採用力向上セミナーを企業向けに開催しています。
同校では、就職者の約60%が近場での就職を希望していますので、秩父に残る人材としてそういった経験をしてもらえるのは良いことだと思います。
今後の産業振興
原島:
未来へ向けて、秩父市はスマートシティの実現に向けて取り組みを始めました。ドローンを利用した物流や災害支援、ICTを活用した遠隔医療、物流MaaS(複数の公共交通やそれ以外の移動サービスを最適に組み合わせて検索・予約・決済等を一括で行うサービス)の導入に取り組んでいます。
特に、秩父地域はドローン航路の先行地域として経済産業省の「デジタルライフライン全国総合整備計画」の中に位置づけられ、150km以上の航路を整備して、ドローンによる配送やインフラの点検を早期に普及していく予定です。
そして、今年度から埼玉県和光市にある国立研究開発法人理化学研究所(以下「理研」という)に協力して頂き、「秩父理研先端技術推進プロジェクト(案)」が始まります。
現北堀市長がマニフェストとして「研究機関の誘致」を掲げておりまして、理研と地域の企業を繋ぎながら、ゆくゆくはその研究機関の一部を誘致できればと考えてプロジェクトを進めているところです。
観光業では、西武鉄道の拠点が台湾にありますので、タイアップしながらインバウンドの受け入れを進めていきたいと考えています。
さらに、2025年の春には秩父市及び隣接する小鹿野町を主な会場として「全国植樹祭」が開催されますので、林業も含めて産業の振興をしていく所存です。
秩父の良さを子供達に
前島:
私は生まれも育ちも上尾市(さいたま市に隣接するベッドタウン)で、上尾市に対して特に地元意識というものはなかったんですね。仕事に関しても地元に就職する意識は全くなくて、秩父市役所には転職で入ったんですが、前職は職場が銀座で海外営業をしていました。
そういった経験もあり、今の仕事に就いてからは、秩父は結束が強くて地元意識があるなと感じます。
それに、上尾市にいた時には意識していなかった日本の課題というものが見えてきます。
先ほど、「高校・大学後の進学・就職で秩父の外に出てしまう」という話が挙がりましたが、今までは秩父市の取り組みとして、高校生くらいから地域の企業を知ってもらおうとしていたんですね。
それを今年からは、小中学生の頃から知ってもらおうということで、親子向けのオープンファクトリーをやりたいと思っています。
さらに、中学生向けに職業セミナーを開催する予定です。実際に秩父で働いている若い方々を講師に招いて、秩父で仕事をする・生活をするとはどういうことなのか、生徒達には秩父でのキャリアについてイメージを掴んでもらいたいと思っています。