国土縮図型都市・浜松市が描くスタートアップ支援の未来図|ユニークなエコシステムの創造と成長戦略

豊かな自然環境と多様な産業が共存し「国土縮図型都市」と呼ばれる静岡県浜松市は、スタートアップビジネスが芽吹く土壌として注目を集めています。

その背景には、他都市にはない独自の取り組みを含め手厚いスタートアップ支援があります。ファンドサポート事業、実証実験サポート事業、スタートアップビザ制度などの多角的な支援を設け、起業、資金調達、事業化に挑戦する起業家を後押ししているのです。

また、スズキ、ホンダ、ヤマハ、浜松ホトニクスなど、世界的な企業を輩出し、「なんでもやってみよう」という「やらまいか精神」に溢れている都市と言われています。

今回のインタビューでは、浜松市におけるスタートアップの創出と成長を力強くサポートしている浜松市 産業部 スタートアップ推進課の宮野様に、浜松市が展開するスタートアップ支援の魅力や特徴、今後のビジョンについてお話を伺いました。


浜松市がスタートアップ支援に取り組むこととしたきっかけ

本市はスタートアップ支援に早くから力を入れていることから、全国的に注目いただいている自治体の一つだと認識しています。

本市がスタートアップ支援に注力するようになったきっかけは、市内スタートアップ(ベンチャー企業)経営者の熱い思いからです。

経済産業省の経営研修プログラム「始動Next Innovator」のシリコンバレー派遣等を経た経営者からの「地域経済発展に向けたスタートアップ支援が必要である」という思いを受け、市は動き出し、シリコンバレーを市長自ら視察するなど、施策の研究に着手しました。

併せて体制整備として、国内においてのスタートアップや支援者が首都圏に集中している現状から、2016年にはままつ首都圏ビジネス情報センターを開設し、情報の収集・発信、スタートアップ企業誘致に着手するとともに、スタートアップ企業へ市職員を派遣するといった、より的確なスタートアップ支援の立案に向けた取り組みを行いました。

そして2021年には、スタートアップ推進課を設置。担当部長を配置することで組織体制と人員体制を強化し、現在に至っています。

浜松市のスタートアップ・エコシステム構築への挑戦

本市が目指すスタートアップ支援には、大きく2つの柱があります。

1つ目は、スタートアップが次々と生まれ、集まり、育つ、スタートアップ・エコシステムの構築です。シード段階、アーリーステージ、ミドルステージなどそれぞれの段階に合わせた支援メニューを用意し、ニーズに合わせて柔軟に対応しています。

2つ目は、地域のものづくり企業とスタートアップの融合を促進し、新たな産業や商品を生み出すことです。本市が長年培ってきたものづくり技術を持つ地域企業とスタートアップの連携を促進し、新たな価値創造を目指しています。

浜松市がリードする、全国初のスタートアップの資金調達支援

本市の代表的なスタートアップ施策の一つに、2019年から開始した「浜松市ファンドサポート事業」があります。この事業では、市が認定したベンチャーキャピタルと連携し、スタートアップへの投資を促進しています。

本市地域を応援してくれるベンチャーキャピタル等を募集しており、現在は首都圏を中心とした全国のベンチャーキャピタルを66社認定しています。

また、認定ベンチャーキャピタルから出資を受けたスタートアップは、本市に対して最大4,000万円の交付金を申請することができます。審査を通過し交付金を受けられたスタートアップは、交付金を活かし、浜松で事業成長を加速させることができます。

この制度により、地域のスタートアップの成長だけではなく、首都圏に集中しているベンチャーキャピタルの投資を本市にむける「投資環境の整備」も目指しています。

さらに2024年度からは「ベンチャーデット(金融機関からの融資)」との連携も開始しました。これは、上場やM&Aを目指すミドルからレイター期のスタートアップ向けの支援施策です。実績が表れるのは今後となりますが、支援の幅がさらに広がったと実感しています。

スタートアップ支援の動きは他の自治体にも広がりつつありますが、ファンドサポート事業は本市が全国の自治体で初めて取り組んでいる事業です。スタートアップ支援に早くから着手し、強力に推進しているからこその、特徴的な事業だと言えるでしょう。

本市を追随してくださる自治体もあるものの、チャレンジングな事業であることから、実現している地域はまだ多くありません。私たちはこの分野における先駆的な存在として、今後も積極的に取り組みを進めていきたいと考えています。

地域の課題解決とビジネス創出を促進する実証実験サポート事業

本市が「国土縮図型都市」であることは、スタートアップ支援においても活かすことできます。山・川・湖・都市部・中山間地域といったあらゆる環境が揃っていることから、実証実験やテストマーケティングに適した土地柄であり、この地で成功したビジネスは全国展開しやすいと考えられます。

またそれだけではなく、日本社会が抱える社会課題も集約されているとも言えます。本市で課題解決の糸口を見つけることができれば、全国展開の可能性を秘めているとも言えるでしょう。

これらの強みを活かし、「実証実験サポート事業」を展開しています。この事業は、行政や地域の課題を全国に発信し、スタートアップ等による実証実験を募集・支援することで、地域課題の解決と新事業の創出を目指しています。

本事業では、単なる実験だけではなく、事業化・商品化を目指した実証実験を支援しています。実証実験を経て商品化されたものについては、「トライアル発注認定事業」制度を設け、本市が最初の顧客となれる体制も整えています。この制度自体は独自のものではありませんが、本市が先進的に取り組んでいることは確かと思います。

外国人起業家の拠点へ 浜松市の「スタートアップビザ」

2022年からは、外国人の起業支援として新たに「スタートアップビザ」という制度を開始しました。この制度は、起業準備活動を行う外国人に対し、特定活動として最長1年間の滞在を認め、その後のビザ取得を支援するものです。

このスタートアップビザ制度は国の枠組みに基づいており、全国で約20の自治体が導入しているため、制度自体は珍しいわけではありません。

この制度を開始した理由として、本市には外国人が多く、留学生も多く滞在していることが挙げられます。通常、留学生は学生ビザで滞在し、卒業後に日本で就職する場合は就業ビザに切り替えます。しかし、起業を希望する留学生はすぐに活用できるビザがなく、その結果、母国へ帰らざるを得なくなることがあります。

そこで、1年間の起業準備期間を確保できる特定活動のビザを用意することで、留学生は帰国せずに地域で起業準備を進められます。

また、カーブアウトも対象です。就業ビザを取得した外国人が起業するために会社を辞めた場合、ビザが切れてしまいます。このような方々もスタートアップビザを活用することで、特定活動として1年間の起業準備期間を確保できます。

現状、本制度の実績はまだ2件ですが、ダイバーシティの視点からも外国人起業家を支援する環境を整えていると好意的に捉えて頂ければ嬉しく思います。

スタートアップを支える浜松市の充実したコミュニティとサポート

本市の魅力の一つは、コミュニティの充実です。スタートアップにとって、情報は人・もの・金と並ぶ重要な要素ですが、一人で情報を収集するには限界があります。本市には地域のスタートアップコミュニティが形成されており、先輩や仲間と交流しながら情報収集や相互コミュニケーションを図ることができます。

このコミュニティの核となっているのが、本市が主催する「浜松スタートアップ・エコシステムクラブ」です。

市内のスタートアップ、支援機関、地域企業の新規事業開発担当など、多彩な方々がFacebookグループに登録していただいており、個別の情報発信やコミュニケーションが可能です。

また、リアルで集まることができる場として、地元の浜松磐田信用金庫が運営するスタートアップ支援施設「FUSE(フューズ)」があります。

多数のインキュベーション施設がある首都圏とは異なり、本市ではFUSEが強力なスタートアップ支援拠点として認識されています。

そのほか、本市で事業展開を目指すスタートアップ等に向けた総合相談窓口を開設しています。特に活用されているのが、地域内にネットワークを有する「スタートアップ地域メンター」による対応です。「このような技術を持った地域企業はないか?」「このような地域企業と繋がりたい」などに具体的に応えています。

このような個別の対応のほかにも、インキュベーション・アクセラレーションのそれぞれの成長支援プログラムを開催しております。

これらのスタートアップのビジネス展開に有利に働くであろう環境が、起業や進出先として本市を選んでいただけていることに繋がっているものと考えています。

浜松市の独自戦略で描くスタートアップの未来図

本市スタートアップ推進課は、5年間のスタートアップ戦略に基づいてさまざまな支援事業を展開し、スタートアップ数や市内の資金調達の増加などの環境整備の面で一定の成果を上げてきました。

今後は、市内スタートアップの成長支援に重点を移すステージであると考えています。具体的には、ユニコーン企業や上場企業創出といった、成長の高さを伸ばすことにも取り組んでまいりたいと考えています。

また、2024年8月に新たに構築した地域企業と全国のスタートアップが気軽に繋がるプラットフォーム(ハマハブ!)を活用するなど、地域企業がスタートアップと連携し、地域経済の活性化に向けた取組にも重点を置く段階でもあります。まずは地域企業がスタートアップのソリューションを導入するところからでも構いませんし、何らかの新商品開発やそれに向けた実証を行うなど、取り組み方は、多様にあろうと思います。いずれにしましても、スタートアップの革新的な技術・アイデアを、地域企業が取り込み、活用していくことを推進してまいりたいと考えています。

このように引き続き、地域の特徴を活かした各種施策にチャレンジしてまいります。