大阪観光大学_山川雅行先生が若い世代に伝える:飲食店経営のリアルと計画・経験の重要性 

大阪観光大学の憲章

建学の精神
「自由を共に楽しみ、社会を共に生きぬく」

基本理念
「(束縛から)自由へ」「(孤立から)共生へ」「(浪費から)持続へ」

社会的使命
「楽しむ力と生きぬく力の養成」「観光学の確立と発展」「地域・社会への貢献」

大阪府にある大阪観光大学。観光学を学ぶ学生に向けて講義を行う山川雅行先生は、飲食店をはじめとした複合レジャー施設の代表を務める、現役の経営者です。

少子化により国内の経済縮小が危惧される中、インバウンド需要を取り込み活性化の兆しをみせている外食産業。ビジネスチャンスの大きな業界として、現在、起業を目指す20代・30代の若い方にも注目されています。

大学講師でもあり、経営者である山川先生に、挑戦する若い世代へのメッセージ、事業計画・経験の重要性などを伺いました。

大学で教壇に立つ会社経営者

―山川先生は経営者としてもご活躍なさっていますが、どのようなビジネスをされているのでしょうか。

私自身は、阪急十三駅(大阪市淀川区)で飲食レジャービルを経営しています。飲食店だけでなく、映画館、ボウリングといった遊技場を備えた複合施設です。サンポードシティという名前のビルなんですけれど、社名は「サカエマチ中央ビル」といいます。

―経営者として仕事をする中で、大学でも授業を受け持つことになった経緯を教えてください。

2006年のことですが、大阪観光大学と私の所属する一般社団法人大阪外食産業協会(以下、ORA)が産学連携の協定を結んだんです。当時私は、ORAの教育研修係として社会人向けのセミナーを担当していました。アメリカのジョージワシントン大学で観光経営学の大学院を卒業していたこともあり、大学でも教える資格があると見込まれて白羽の矢が立ったわけです。

それではスタートしてから、かなりの歴史がありますね。

2007年から授業が始まったので、今年で18年目になります。週1回、90分の授業で、前期は「外食産業論」、そして後期が「レストラン経営」という講義を行っています。今ですと大体160名くらいの受講者がいらっしゃいます。

―受講者は主に大阪観光大学の学生さんですか?

基本的には学生ですね。単位を取るために授業を受けていただいています。ORAの会員さんや、地元住民の方向けに公開授業も行っているので、学生以外も受講されることがあります。

やはり一般受講される方は、飲食産業に従事されている方が多いのでしょうか。

「純粋に興味がある」という方がほとんどですね。授業の特徴として、私の講義だけでなくORAの会長や有名企業の社長も特別講義で登壇してくれるんです。なので、ゲストスピーカーの話をぜひ聞いてみたいと参加される方は多いですね。もちろんなかには飲食店経営について勉強したいと第一回からすべての講義を受けていただいている方もいらっしゃいます。

一般社団法人大阪外食産業協会
山川雅行先生

飲食店経営の「実際」を知る

将来的に飲食店を経営したいという受講生もいらっしゃるのではないでしょうか。

そういう方もいらっしゃいますね。これは授業でも言っていることですが、飲食店経営は非常に参入障壁が低いんです。調理師免許なども実は必須ではないですし、誰でも始めやすい。でも経験がない方がいきなり「なんとなくできるだろう」で始めると、やはり失敗する確率が非常に高いんです。だからこそ事業計画をしっかりと立てて、収支モデルなどもちゃんと理論として知っておかないといけない、と授業で伝えていますね。

やはり勉強したほうが成功する確率は高い、ということですね。

正直なところ、個人のお店であれば、100店舗中93店舗は開業10年後には残っていない。生存率7%の世界です。全くノウハウのない方は、まずはフランチャイズで経験を積んだ上でオリジナルのお店に舵をきるとか、手堅く経営をしていくことが長く続けるためには必要だと思います。

先生ご自身は、どのような経緯で経営者の道へと進まれたのでしょうか。

私は実は、会社の四代目なんです。明治42年に私の曾祖父が創業しました。といってもずっと飲食店をやってきたわけではなく、大阪の千日前で映画館を始めたのが最初です。大正9年には帝国キネマ演芸という映画会社を作ったんですが、戦争で他の制作会社と合併をしました。戦後はまた映画館を始めましたが、父の代で総合レジャーという形に事業を移していき、私は40歳のとき社長に就任しました。

時代と共に変化していく柔軟性も必要

先生の会社も時代に合わせて事業を変遷されていますが、やはり「トレンド」の傾向は研究テーマにもあるのでしょうか。

はい。やはり今は「タイパ」「コスパ」というのが基本的なキーワードとなっていて、お客様が流行に飽きるのも非常に早い。トレンドを追いすぎるのも良くないと話していますね。

出店計画の授業で伝えているのですが、大切なのは「事業をどうやって継続していくか」ということ。方法は大きく二つあって、一つは、形を変えて継続していく。もう一つは、圧倒的な一品を作ることによって継続していく。このどちらかを事業で選択していかなければ生き残れません。

老舗と言われるところは「この店といえばこれ!」と思い浮かぶものが必ずある。でも磨き続けてきたものを時代に合わせてギリギリ変えたり変えなかったりの決断を続け、ものすごい努力を陰でされているんです。業界にいる人間として、そういった側面を学生さんには伝えていきたいですね。

若者が外食産業やレジャー産業に就職する、ということをどう見られていますか。

少子化で人口減少が続き、経済が縮小していく中で、外食産業はインバウンドのお客様から資金を獲得するという一翼を担っていますからね。若い方で起業家精神が旺盛な方も増えてきているので、そういったビジネスチャンスのある業界に参入しようと思われるのは自然なことだと思います。日本はものづくりの国といわれますが、実際はサービス業に従事している人が圧倒的に多いわけですし、必然かなとも思います。

業界の未来を若者につなげていく

若い世代に伝えたいことはありますか。

外食産業というと、どうしてもブラックだと思われてしまうところがあり、実際そういった会社がまだあるというのも現状です。

若い方、特に学生さんは目の前で見えている世界が全てだったりするので、そうではなくて、「こういう取り組みをされている素晴らしい会社もあるよ」「世の中全体がこういうふうに変わってきているよ」ということを伝えたいですね。 やはり我々も時代に合わせて、事業の中身や働き方を変えていっていますし。

―デジタル化も推進されています。

人手不足ということもあり、DXもどんどん進めています。ORAの会員には、我々飲食店経営をしているメンバーだけでなく、食品・飲料メーカーさんや、情報系の端末を販売している会社さんもいらっしゃいます。そういった方々と協力しながら、どんどんDXを進めることによって省力化しているというのが現状です。

外食産業の「今」を知るORA会員が講義に登壇されることの影響力は感じていらっしゃいますか。

ゲストスピーカーの授業を聞いて、その会社に就職を希望される方もいらっしゃるんです。全国的に名前が知られているような会社でなくとも、社長さんが直接「我々はこういうふうに人材教育をしてますよ」とか「人を大切にすることを実践してますよ」と語りかけると、それが仕事の応募動機につながっていくんです。実際に面接を経て採用された大阪観光大学の卒業生もいらっしゃるので、それはもう我々にとっては非常に嬉しい話です。

先生の講義が、外食産業における人材の育成にもつながっているのですね。

人の育成なくして企業の成長はあり得ないですからね。これからも受講してくれる方のためになる講座であり続けたいと思っています。

最後に、仕事のモチベーションを維持する秘訣を教えていただけますか。

私も仕事をしているとルーティーンになってしまいますので、常に変化を求めてやっています。

学生さんには、学校だけじゃなくてアルバイトすることによって、色々な年代の人と出会うということをお勧めしています。勉強であっても、自分1人で突然始めるというのは難しいです。他人からの刺激を受けることによって、何かにチャレンジしてみようという気持ちが生まれる。異文化に触れる、違う年代の人に触れる、ということを若い方には伝えていきたいですね。